中小企業の事業承継と知的財産

中小企業の事業承継について、いろいろな省庁で施策が出てきていますね。ただ、ちょっと告知の声が小さいんですよね。なかなか告知に気がつかないことがあります。今日は、特許庁の行ている支援について考えてみます。

たまたま見つけたのですが、特許庁のウェブではこのようなタイトルで書いてあります。

「中小企業の事業承継について知的財産を切り口にご支援します!(追加案内)」

知財を切り口に支援をしますという特許庁らしいアプローチです。公募対象は、「事業承継についてすでに取り組んでいるか5年以内に検討したい中小企業」です。「うちの会社は、知的財産なんて持ってないよ」という社長さん、安心してください。特許などの知的財産を持っていなくても、「強みのあるアイデア・ノウハウ」という段階のものでも、頭の中にあれば、応募ができるようです。

「そんなフワフワとした感じでも、大丈夫なの?」と思った皆さん。特許庁は、このような支援をしてくれます。

専門家を派遣して、事業承継に向けて有用な準備と考えられる『自社が保有する知的財産(知的財産権、ノウハウ、ブランド等の強み)を「見える化」「磨き上げ」すること』についてご支援や助言をいたします。

特許庁ウェブサイト 中小企業の事業承継について知的財産を切り口にご支援します!(追加案内)より抜粋

フワっとしていても、知財の形になっていなくても「ノウハウ、ブランド等」を特許庁の方法で「磨き上げ」てくれるのです。

「えー、ブランド化かぁ」と遠くを見てしまう。特許庁では、例えば「会社名」で商標登録するというのも1つかもしれません。もしくは、サービス名や製品名を商標登録するといいですよ、というアドバイスなのかもしれません。

「ノウハウも、特許庁のアドバイスを聞けば、見えるようにしてくれるの?」という感じで前のめりになった方、ちょっと待ってください。

例えば、事業承継をM&Aで進めていこうとしたときに、知財は資産になります。なので、M&A先との交渉時に良い検討材料となることはあるようです。「それなら、これから事業にまつわるいろんなものを知的財産化して、見える化しよう」という方もいらっしゃるかもしれません。

知的財産は、公開するべきものと公開するべきではないものと明確に分かれます。会社独自のノウハウも、事業方針で知的財産化することで守っていくほうがよいのかなども、慎重な検討を重ねることが大切です。

例えば、特許にするということは、申請から一定の時間が経過すると、特許として公開されます。秘伝のノウハウだったら、大変なことになります。

今回のこの特許庁の事業名に「追加案内」と書いてあります。これは、1回目の募集で、所定の数の企業が集まらなかったのだと思います。所定の数に達成されるまでは、募集が追加案内されます。今回は、15社程度ということのようです。今回15社が達成できて、事業の受託企業が、「この施策、喜ばれていますよ」と特許庁に報告すると来年度も募集があるかもしれませんね。

会社で誰にも教えたくない営業秘密は何かを社内で把握する必要があるかと思います。ぜひ有効に、かつ、事業承継に有利になるような知的財産化を目指してください。

まるっと解決!

大手企業の事業承継支援のカタチ

このところ、事業承継をサポートするための金融機関同士での提携の話が増えています。
サポートの体制が整いつつあることは、私たち事業承継の当事者にとって、いいニュースであってほしいと思います。

今回、バトンタッチドットビズで取り上げるのは、大手企業が得意先や仕入れ先の中小企業向けの事業承継支援を独立系ファンドと提携し、 特別目的会社を活用していこうという記事をご紹介します。
この方法を導入するのは、一部上場企業である株式会社山善(以下、山善と表記)です。持続的成長の一つとして打ち出した取り組みです。主なポイントは下記のとおりです。

「経営者が70代半ば過ぎや、子息が入社していないパターンなどがある。オーナー企業が多く、次期の経営者が育っていないこともある」(山善の高津雅彦営業企画部部長)。


山善は事業承継支援に当たり、約3カ月間にわたり、相手企業の従業員に徹底的なヒアリングを実施。課題を抽出し、対応策を共に練る。その後、3カ月かけてアクションプランを立案。平均2年程度かけて実行する。年内をめどに1号案件に着手する予定だ。ただし、自ら仕掛けることはせず、「販売先から相談を受けた場合のみ対応する」(同)。


金融機関との連携は想定せず、ファンドとの連携が中心になる見通し。事業承継の課題が解決すれば、山善とファンドが共同出資する予定の特別目的会社(SPC)に対象企業株式を譲渡するか、山善が完全子会社化する見通し。

日刊工業新聞(2019/6/6 05:00配信)より一部抜粋

抜粋内容からも「次期経営者が育っていない」という現状に、危機感を感じている一部上場企業が、取引先やパートナー企業を事業が継続可能な形にサポートする一つの案という意味では、こういうのもありか!と思いました。
記事の限りでいえば、相談のあった案件のみ対応ということで、無理強いはしないというニュアンスがあります。

今までの取引先にM&Aのような形で託せるのであれば、幸せな結末と言えるのかもしれません。ただ、記事のから感じられる山善の視点は、「BCP」寄りなのかな、と思いました。

BCP?

「BCP(事業継続計画)」という言葉も、経営者の方は耳にする機会が多いかと思います。ただ、その場合のBCP策定の想定は「災害などの非常時でのBPC」を指すことが多いです。
つまり、災害ひとくくりではなく、地震、台風、洪水などの各ケースに対して、防災面から事業か継続できるための計画を立てることを指します。今回の台風19号などの災害は、企業のBCPが試されるときでもあります。(個人的には、どのくらいの企業が策定したBCPを活かすことができたのか、興味がありますが。)

広義の意味でBCPは、「会社が緊急時に限られた経営資源を活かし、事業を継続させるための計画」という側面を持つものです。そう考えると、今回の山善の取り組みは、まさに、BCP!

このまま対策を立てなければ、せっかく築き上げたサプライチェーンが機能しなくなることへの深い懸念があるのだと思います。まさに、上場企業のサプライチェーンを支えている中小企業が、急に廃業してしまい、ポロポロとサプライチェーンから抜け落ちてしまったら・・・。

そうです!その事態が山善にとって緊急事態なのです。また、中核を担う、中小零細企業がM&Aをしてしまい、急に他社のグループ会社になってしまうなんてことも考えられます。ましてや、気が付いたら、ライバル会社のサプライチェーンの一部になってしまったりなど、あらゆるリスクが考えられます。

今まさに、何か策を練らなければ、山善の考えているBCPは、想定以上にダメージを負う可能性があると判断したのでしょう。
ただ、「支えてくれる中小企業にも考えがあると思うので」と一歩引いたニュアンスは感じられますが、将来的な見通しという観点で、山善の完全子会社化という未来図を描いています。

中小企業の手じまいに対して、有効な出口戦略のひとつとなるのか、興味深い方法です。今後も、じっくり見守っていきたいと思います。